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加藤
インタビュー

株式会社Aikomi 加藤さんインタビュー

2020年6月
参加者インタビュー
加藤さん

株式会社Aikomi 加藤さんインタビュー

株式会社Aikomi 共同創業者/COO ​加藤潤一さん (以下、敬称略) にお話をうかがいました。Codebot では、Aikomi の新規事業である、みんなの非薬物療法 のプロトタイプ構築から、本番開発までを担当し、継続的なアップデートのお手伝いもさせていただいています。

会社とサービスについて

運営: 会社についてご紹介お願いします。

加藤: 約2年前の2018年2月に創業した会社です。その前は、武田薬品工業で認知症の薬について研究開発していました。もう一人の共同代表も創薬やデジタルでの医療について研究していたので、研究者2人で創業した会社です。

運営: なぜ、前職を辞めて起業したのですか?

加藤: 薬以外の方法で認知症と向き合えないかと思ったからです。そもそもの話ですが、現在認知症を完治させる薬というのはありません。また、この20年ぐらいで数十兆の研究費が投資されていますが、なかなか新薬も出てきていないという状況です。簡単に言えば、特効薬はなく、新薬開発も難しいというのが現状です。そういった背景もあり、別のアプローチで病気と向き合えないかと思い、創業しました。

運営: 親族などが認知症になった場合、どうするのが一般的なんですか?

加藤: 完治する薬はありませんが、症状を抑える薬はあります。病気の進行を数カ月遅らせるというようなものです。なので、基本的には薬が処方され、それを服薬することになります。また、認知症の薬ではありませんが、統合失調症やうつ病などの薬を少量飲むこともあります。

運営: 症状の程度はあると思いますが、認知症の方はたくさんいるイメージがありますよね。

加藤: 75歳以上の20%ほどが発症するといわれています。本人で気づくことはなかなか難しいので、親族などが一緒に病院に行くことが多いです。病院で、今日は何年何月などの質疑や、簡単な計算問題のテストをして診断します。場合によっては、MRIなどを撮ることもあります。

運営: 診断されたら、服薬しつつという感じなんですね。

加藤: 介護の一環として親族が協力することになります。親族が難しい場合は、地域包括ケアセンターなどで社会福祉士の方に相談し、地域で見守りをするような形になります。1人暮らしの方もいるので、定期的にアパートなどに訪問するようなサポートになります。

運営: 介護分野になるんですね。

加藤: 介護は、食事面や衛生面などの肉体労働が目に見えやすい部分ですが、精神的な部分も多分にあります。認知症の継続的な治療には精神的なサポートが必要です。ご家族との関係や、介護者との信頼関係が重要になるのでとても難しい部分になります。

運営: 御社の事業はそういった精神的な部分へのサポートということですよね。

加藤: デジタルサービスを通して認知症に対応していきたいと思っています。現在は、認知症の方向けに、パーソナライズされた動画・画像の配信サービスを提供しています。ご家族などから、その方の人生史を聞いた上で、写真や動画を収集して、配信しています。Google 画像検索や Youtube だと難しい部分があるので、個別に調査した上で、コンテンツを収集、編集し、配信する形になります。

運営: パーソナライズというところがポイントですか?

加藤: 認知症の方は、懐かしい写真や動画を好んで閲覧するので、パーソナライズが必須になります。認知症になると、テレビなどで新しい情報を見ることは少なくなり、過去に心に刺さったものを繰り返し見るようになります。また、家族や介護士とのコミュニケーションを補助する側面があります。画像や動画が会話の切り口になるので、コミュニケーションの負担を軽減させることになります。認知症の方と健常者の方のコミュニケーションは、どうしても同じ会話の繰り返しになってしまい、健常者の方のストレスが多くなってしまいがちです。介護士の方も、患者さんのことを知るきっかけになるので、信頼関係を築く手助けになると思っています。

運営: 確かに面と向かって会話するのは、何にせよ大変ですよね。

加藤: そういった意味で、人と人をつなぐツールだと思っています。将来的には介護ロボットなども活躍することになると思いますが、精神的なつながりという点では、人間の代わりをするのは難しいと思います。少し補足しておくと、ボケ防止の脳トレのようなものとも違う位置付けで考えています。物忘れ軽減などではなく、精神的な不安、怒り、無関心などを解決することを目指しています。

運営: 新型コロナウィルスによる、遠隔にも対応できそうですね。

加藤: 遠隔での同時視聴も可能です。新型コロナウィルスの流行により、面会が難しくなっているなかでも、ご家族となにかを共有する機会になると思います。面と向かってテレビ電話をするのもいいですが、趣味の動画を一緒に閲覧するほうが気軽にできるのではと思っています。

開発について

運営: 現在の開発はどのように行っているのですか?

加藤: 基本的には外部の協力会社に依頼しています。先ほど話した動画配信サービスの開発で協力していただいている会社が1社います。今回 Codebot では、その動画配信サービスとは別システムで、関連するシステムの開発をお願いしました。

運営: せっかくなので Codebot で開発したシステムについてご説明をお願いしてもいいですか。

加藤: 画像・動画配信サービスでは、認知症の方にパーソナライズされた動画や写真が必要になります。ご家族からデータを提供していただければいいのですが、それだけだと足りない場合は、収集しなくてはいけません。例えば、過去にどこかを観光したのであれば、それらの地域の画像や動画が必要になります。現状は、そういった動画や画像を知り合いにお願いして、送ってもらっています。ただ、それだけだと大変なので、継続的に収集できる仕組みを作りたい思っていました。そこで今回立ち上げたのが「みんなの非薬物療法」というサイトです。いわゆる画像・動画が投稿できるコミュニティサイトです。

運営: 配信システムに対する、投稿システムという感じですよね。

加藤: 「みんなの非薬物療法」で継続的に画像・動画が集まることで、より継続的にコンテンツ配信ができるような仕組みになると思っています。また、コンテンツ収集以外にも、薬を使わない認知症との向き合い方の啓蒙をしていくようなサイトになればと思っています。

運営: 現在はどのような人員で営業しているのですか?

加藤: フルタイム4人、パートタイム3人の計7人ほどで動いています。社会福祉士、臨床心理士などの専門家の方もいて、コンテンツ作成や介護施設への営業などが業務になります。

運営: 介護施設向けに営業をしているのですか?

加藤: そうです。介護施設経由での販売に力を入れています。介護施設が販売代理店のような位置付けになります。最終的には、ご家族が購入するのですが、販路として施設が重要になります。認知症の方への精神的な部分へのサポートをしているような施設が、初期パートナーになっていただけています。

今後について

運営: 今後の計画について教えてください。

加藤: 現在の配信システムの本格的なサービス展開を今年中に進めつつ、販売を強化していきたいと思っています。具体的には、製薬会社や保険会社との業務提携などを通した展開を検討しています。また、認知症への効果の測定をし、学術的な効果の証明につなげていければ理想的だと思います。

運営: 販売強化は、介護施設向けということですよね。

加藤: それ以外だと、ご家族と同居されているケースにも対応したいと思っています。ただ、こちらはサポート業務なども大変なので、来年再来年ぐらいに対応できたらいいという感じです。

運営: 新型コロナウィルスで計画の変更などはあったのですか?

加藤: 介護施設が立ち入り禁止になってしまったので、営業上制約はありますが、大きな計画の変更は特にありません。ただ、動画の視聴などある程度対面を想定して設計したシステムだったので、そういった部分について、遠隔でも自然にできるような形を検討したいと思っています。

後述

肉体労働としての介護ではなく、精神的サポートにおける介護分野で事業を展開されている加藤さんの話はとても勉強になりました。介護需要が上がるなかで、コロナウィルスの流行で対面での面会が制限されていることを考えると、とても成長分野だと思います。また、認知症の方との付き合い方として、対面で会話をするのではなく、一緒に動画を視聴するという切り口は面白いと思いました。

サブシステムではありますが、プロトタイピング構築から、本番開発、追加開発とご一緒させていただき非常に勉強になりました。関係者の皆様ありがとうございました。